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  • 執筆者の写真榊原 将/HR Linqs, Inc.

学生スポーツのビジネス化

2021年7月1日は大学スポーツそして学生スポーツ選手にとって、大きな変革が生じた日となった。

この日よりNCAA(National Collegiate Athletic Association:全米大学体育協会)の一連の規則や関係する法律の変更によって、(一部の州での)大学のスポーツ選手が自分の名前、画像、肖像(NIL:Names, Images, and likeliness)から利益を得ることが可能となった。


NCAAは全米で1,100校が加盟する世界最大の大学スポーツ組織であり、例えばNCAAのアメリカンフットボールはNational Football Association(NFL:プロアメリカンフットボールリーグ)を凌駕する人気を誇っている。


今までNCAAは各大学への奨学金と引き換えに超一流の学生スポーツ選手がいかなる収入を得ることも禁じている一方、試合の放映権等で2019年には約19億ドル(約2,102億円)の売上を上げている(2020年はコロナ禍なので2019年を参照)。その内58%がフットボールとバスケットボールのプログラムからの売上となる。


大学単体でのトップ5は以下となる:


1. テキサス大学:約2億2,380万ドル(約247億円)

2. テキサスA&M大学:約2億1,270万ドル(約235億円)

3. オハイオ州立大学:約2億1,000万ドル(約235億円)

4. ミシガン大学:約1億978万ドル(約219億円)

5. ジョージア大学:約1億740万ドル(約193億円)


公開はされていないが、日本で最も売上が高いとされているスポーツ球団はNPBの福岡ソフトバンクホークスで2019年の売上が約317億円ほどとされているものの、多くの日本のプロ野球球団は200億円の売上に到達していない。プロサッカーリーグのJリーグで最も売上が高いヴィッセル神戸でも約115億円であり、これら売り上げからアメリカの学生スポーツビジネスの市場規模の大きさが分かる。


人気の高さはそのスタジアムの収容人数からも分かる。例えばミシガン大学は通称Big Houseと呼ばれる全米一収容人数が多いフットボールスタジアムがあり、10万7千人程が収容可能である。その他10万人規模のスタジアムも多く存在する。


なお、これらの大学の多くは公立校であり、大学のスポーツチームのヘッドコーチは公立校の職員となる。Highest Paid State Employees(最高給の州政府職員)と検索するとリストが出てくるが、その多くが大学フットボールチームまたは大学バスケットボールのヘッドコーチであり、例えば大学フットボールの名門サウスキャロライナ州にあるクレムゾン大学タイガース率いるダボ・スウィニーの年俸は930万ドル(約10億円)である。


NCAAのルール改定前には多くの有名チームや選手の勝利数やチャンピオンシップがNCAAのルール違反により無効になった。また、多くのトップ学生スポーツ選手が貧困ライン(Poverty Level)以下の生活を強いられているという状況もあり、このルール変更は以前から強く要望されていたものである。


現状で最も稼ぐことが出来るであろうとされているのはルイジアナ州立大学タイガース(通称LSU)のジムナスティックチームに所属しており、TikTokで390万人、Instagramで110万人のフォロワーがいるオリビア・ダンであり試算ではその年俸は最低でも100万ドルとされている。


98%の学生スポーツ選手はプロアスリートになれないという状況の中で、学生時代から稼ぐ力を身に着けることが可能となるのはアスリートにとっては良いことであると同時に、同一チーム内でも大きな格差が生じることが危惧されている側面もある。


発端となったのは2019年9月30日にカリフォルニア州で学生スポーツ選手が広告費等で収入を得たことで罰する(出場停止等)ことを2023年以降禁ずるという法案が提出されたことによるものであり、今回の変更に至るまでに2年弱の期間を有している。


現状もまだInterim Rule(暫定的なルール)という形であり、連邦法はまだ制定されていないため現在はまだ一部の州のみでしか適用がされないが全ての州にて適用されるのも時間の問題である。

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